コレクション展2020「うつし、描かれた港と水辺」(11)

2020.3.11

横浜市民ギャラリーコレクション展2020「うつし、描かれた港と水辺」の魅力をお届けするブログ第11回です。(3月15日(日)まで毎日更新する予定)


***

本日は、展覧会の第4章「港と水辺 アラカルト-版画と漫画の多様な表現」よりお届けします。


4. 港と水辺 アラカルト-版画と漫画の多様な表現



版画は木版や銅版などの主要な版種がよく知られますが、作家が創意工夫し技法を研究し、版と向き合うことから個性的な表現が多く生まれます。柴田昌一(1935年生まれ)はエッチングやアクアチントで漆黒の夜空を背景にみなとみらい21地区を描きます(写真上、左2点。下記「きょうの1点」で紹介)。巨大な月や手前の不思議な草木、幾何学的な構造物、そして浮かぶ船などを同居させ、幻想的な風景に仕上げています。由木礼(1928-2003)は、輪郭線を引かず複数の版を淡い水性インクで刷り重ね、空や海の色のグラデーションや、中央にそびえるタワー、海岸沿いの道路までも、やわらかにあらわします(写真上、右2点)。



版の上で試行錯誤を重ねる版画と対照的に、漫画作品は1978年の「ヨコハマ漫画フェスティバル」にあわせて展覧会直前に出品作家32名を一堂に集め、即興に近いかたちで描かれました。同展の中心人物・柳原良平(1931-2015)は、制作に際し作家に示した制作テーマのひとつ、横浜事始めを取り上げ、税関の前身である運上所や領事館が建ち並び、輸出入で賑わう開港期の横浜の様子を、ユーモアを交えて描いています(写真下、中央)。



■きょうの1点


柴田昌一(1935年生まれ)

《MM21(A)》 1988年 エッチング、アクアチント 29.2×37.9㎝


柴田は横須賀市生まれ。1960年に武蔵野美術学校(現・武蔵野美術大学)卒業。初期には平面とあわせ電気仕掛けの大型の立体作品も制作しましたが、銅版画家・加藤清美の作品に感銘を受け同氏の技法書で銅版画を独学で学びました。クリスチャンの柴田は聖書の世界観を基盤に、エッチングやアクアチントを主に用いて密集する無機質な構造物や植物が共存する近未来的な風景を制作してきました。本作には、巨大な月と近代的な建物が林立するみなとみらい21地区を背景に、日本丸に似た帆船が空に浮かぶ幻想的な風景が描かれています。作品が制作された1988年当時は沿岸にここまで多くの建物が出来ておらず、ゆえに想像を掻き立てられて描いた部分があるかもしれません。


***