コレクション展2020「うつし、描かれた港と水辺」(9)

2020.3.9

横浜市民ギャラリーコレクション展2020「うつし、描かれた港と水辺」の魅力をお届けするブログ第9回です。(3月15日(日)まで毎日更新する予定)


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本日は、展覧会の第3章よりお届けします。


3. 水辺と人びと


港や水辺に集う人の目的はさまざまです。働く人、旅立つ人、見送りをする人、散歩する人。水辺にて人は何を思うのでしょうか。林敬二(1933年生まれ)(※写真上・右端)は人物と浮遊感ある抽象的な空間とを組み合わせた画風で知られますが、《横浜港》では横向きの女性とともに建設中の横浜ベイブリッジを遠方に臨む風景が、具象的ながらも林らしいアレンジを加えて描かれており、林の作品群の中で他に類を見ない表現となっています。

三橋兄弟治(1911-1996)の《港にて》(※写真上・右端)は1940年の作品です。前年ヨーロッパで第二次世界大戦が勃発し、日本も翌年参戦に向かうという世相下ですが、港に停泊する船を背に会話を交わしているようにも見える3人の人物の様子は、晴れの日ののどかな雰囲気を感じさせます。田中岑(1921-2014)の《窓外港 朝》(※下記「きょうの1点」で紹介)には人物が描かれていませんが、窓の前に座り、外の風景を眺める作家自身の存在を想起させます。



■きょうの1点


田中岑(1921-2014)

《窓外港 朝》1988年 油彩、キャンバス 111.8×161.3cm


田中は香川県生まれ。1939年東京美術学校油画科予科に入学後、海老原喜之助の勧めで日本大学芸術学科に転入。従軍・除隊を経て1947年に再度上京し、戦前は独立展、戦後は自由美術家協会や春陽会等を中心に発表、1957年第1回安井賞、1986年第15回川崎市文化賞を受賞しています。1950年代から国内で評価されていた田中は、1960年から約1年の渡欧の際、木村忠太や藤田嗣治らと交流し印象派に影響を受けます。そして帰国後に、明瞭な色彩と柔らかな筆致で光を描く画風を確立させました。本作はホテルニューグランドからの眺めでしょうか。窓から見える山下公園と穏やかな海の水面、爽やかな空気を感じさせる空が淡い色彩で描かれています。


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