「古典絵画をまなぶ―金箔技法とテンペラ描画」開催レポート2

2016.10.7

6月3日より開催した「古典技法をまなぶ-金箔技法とテンペラ描画」。

全6回の講座の後半3回分をレポートします。

4日目 6月24日

金箔を貼る工程です。 金箔はとても薄く、人が近くを通っただけでもひらひらしてしまうので、今回はガラスの扉のある場所で作業することになりました。

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金箔は「箔切り台」という革を張った台の上で切ります。

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金箔を貼る部分に水を塗り、刷毛に静電気で金箔を付けて水を塗った部分に乗せます。 前回塗ったボーロ(朱色の下地)に入っている膠が水で溶けるため接着できるそうです。

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割りばしに巻付けた綿で金箔をおさえて定着させます。その後、図案からはみ出した金箔を、水で湿らせた綿棒で取り除きました。 乾いたらメノウ棒で磨きをかけます。磨くとさらに金が輝きます。

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5日目 7月1日

この日は、テンペラ画の歴史のレクチャーから始まりました。 昔のテンペラ画は個人の作家としてではなく、依頼があって職人として制作していたので、年月が経っても絵が保たれるように技術の研究と習得が必要だったそうです。

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先週メノウ棒で磨いた部分に刻印棒で点を打って模様を付けます。 凹みが出来ると金の見え方が変わってきます。

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ここから絵具を作って描いていきます。 テンペラ絵具を作りながら、先生がイタリアのテンペラ絵具のレシピをお話ししてくださいました。卵を割って、殻半分に黄身をとって黄身の薄皮を取り除きます。その殻の半分(卵の体積の4/1)に酢、あと半分(卵の体積の4/1)に水を入れて作るそうです。

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卵を使っているためカビが生えやすいので防腐剤をいれます。完成品を飾っておく時にも湿気に気を付けないとカビてしまうそうです。

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茶色(バーントアンバー)のテンペラ絵具を作って下書きの輪郭線を描きます。蔓(つる)の陰なども、この茶色をうすめて付けていきます。

6回目 7月8日

赤、緑、青、の絵具で背景の色を付けて仕上げていきます。 絵具を防腐剤の入った精製水と卵液で濃度調整しながら塗ります。厚塗りにすると後ではがれるので、薄塗りで画面にぴたっと塗るといいそうです。

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今回の図案はホワイトヴァインという白い蔓(つる)を意味する装飾文字です。蔓は地のジェッソの白を生かします。

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最後に細かな点を入れると 完成! 欠けないように箱に入れて そっと持って帰っていただ きました。

 

下地を塗ったり金箔を貼ったり、普段なかなかできない貴重な体験だったと思います。受講したみなさんは、イタリアルネッサンス期の職人の気分を味わっていただけたかもしれませんね。

「古典技法をまなぶ―金箔技法とテンペラ描画」開催レポート1

2016.9.3

6月3日より開催した「古典技法をまなぶ-金箔技法とテンペラ描画」。

全6回の講座を2回に分けてレポートします。

この講座は昨年に続いての開催となった人気講座で、今年は、8cm×8cmのイニシャル1文字と枠の部分に金箔を貼り、背景の模様をテンペラ描画で着彩することに挑戦しました。

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1回目 6月3日

初めに講師の上野淑美先生からテンペラ技法についてのレクチャーを受けました。

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最初の作業で、木の板に下地となるジェッソを塗ります。

状態を見ながら8層塗り重ねていきます。

上野先生の絵画修復スタジオのスタッフの方もいらして丁寧に指導してくださいました。

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下地を乾かしながら、先生が用意してくれた図案を参考にデザインを考えます。蔓(つる)の装飾には色々な法則があるようです。蔓が交差する部分は組み紐のように上下に交互に重なるようにデザインされています。

 

2日目 6月10日

先週塗ったジェッソを紙やすりで平らに削ります。

紙やすりは3段階用意されていて、段々細かい目のものにしていきます。

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ジェッソを塗った板に図案を写します。

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目打ちで文字の輪郭を削ってから、文字の部分をジェッソで盛りあげます。

 

3日目 6月17日

横から光線をあて、凹凸を見やすくして盛り上げた文字の部分のジェッソを削り整えます。皆さん集中して作業を進めていました。

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 文字が整ったら、文字と枠の部分(後に金箔を貼る部分)にボーロという朱色の下地を塗ります。ボーロを塗ることであたたかみのある金色になるそうです。

3日目の工程はこれで終了。次回はいよいよ金箔貼りです。

「田中千智展 I am a Painter」トーク、ピアノライブレポート

2016.2.8

「ニューアート展NEXT 2015 田中千智展 I am a Painter」では、イベントも大盛況でした。

まずは、10月3日に開催した「アーティストトーク」。

アーティストトーク会場の様子
90名のお客様にお集まりいただき、会場は超満員!

アーティストトークの様子
この日は田中さんに加え、黄金町バザールディレクターの山野真悟さんをゲストにお迎えしました。
山野さんは初回の「黄金町バザール」からディレクターを務めており、田中さんが横浜の黄金町に滞在制作をするきっかけをつくった方です。
お二人とも福岡で同郷ということで、そこでの出会いが横浜での作品発表につながりました。
田中さんと山野さん
山野さんは、田中さんの作品はもちろん、物怖じしないのびのびとした人柄に可能性を感じたと言います。
お話はお二人の出会いから、2008年の黄金町バザール当時のエピソード、そして現在にまで至りました。
旧知の仲のお二人の息の合ったトークに、会場は和やかな雰囲気に包まれました。


続いて、翌10月4日に開催した「林正樹ピアノライブ “夜のピアノと夜の絵たち”」。
ピアノライブ会場の様子
こちらも100人を超えるお客様にお集まりいただき、大盛況!
田中さんの新作が並ぶ地下1階の展示室に、この日のためにグランドピアノを設え、作品に囲まれる空間での演奏となりました。
林さんの演奏
会場の中に、やさしく情緒豊かな林さんのピアノの音色が響きわたります。
なんと、この日は田中さんの新作から着想を得た楽曲が2曲披露されました。
1曲は、会場正面に掛けられた作品《戦う人》をきっかけに作曲された新曲。
そしてもう1曲は、ピアノを弾く林さんの向かい側に展示された作品《浮かぶ》に対面しながらの即興演奏でした。
ちょうどその即興演奏中に、会場の配管から小さな水の音が流れるというアクシデントがありましたが、それも「曲に合っていた」と林さん。
その場の状況を含めてご自分の音楽にしてしまうところがさすがです。
田中さんと林さんのトーク
演奏の合間には、林さんと田中さんのミニトークもありました。
お二人は、今回の展覧会のデザインを担当した北川正さんがご縁で知り合ったとのこと。
林さんが2014年にリリースしたCDアルバム「El retratador」のジャケット画を田中さんが手がけています。
林正樹さん
今回のように作品に囲まれる空間で演奏するのは林さんも初めてだったとのこと。
とても贅沢な一夜となりました。
終演後のサイン会
終演後には急遽お二人によるサイン会を開催。
たくさんの方々がすばらしい演奏の余韻に浸りながら、列をつくっていました。
林さん、田中さん、ご来場いただいた皆様、どうもありがとうございました。

「107人のポートレート」の展示

2016.2.2

「107人のポートレート」は、田中千智さんの初期の作品です。
2008年に開催された初回の黄金町バザールで、田中さんがレジデンスアーティストとして黄金町に滞在したときに、まちの人々をモデルに描き上げたもの。
田中さんがまちの一人一人に交渉してモデルになってもらい、100を超えるポートレートを完成させました。

今回の「ニューアート展NEXT 2015 田中千智展 I am a Painter」の開催にあたり、この作品をぜひとももう一度横浜で展示したいと考え、横浜市民ギャラリーのスタッフが現存調査を行いました。
その結果、お店が閉店や移転してしまったり、持ち主の方がお引越しされてしまったりで所在不明となった作品もありましたが、多くの方々が大切に作品を保管されていることがわかりました。
そこで2種類の展示を行うことにしました。
一つは、個人で所蔵されている肖像画を、横浜市民ギャラリーの展示室に展示すること。
もう一つは、お店を営んでいる方に、2008年の黄金町バザールと同じように商店の中に飾っていただくこと。
そうして、横浜市民ギャラリーの展示室で20点の作品が、黄金町のまちなかで26点の作品展示が実現しました。
10月1日~11月3日の「黄金町バザール」の会期中、21箇所の商店・病院にご協力いただいた展示の様子をご紹介します。

第一亭
第一亭
手際よく料理の準備をするお店の方を見ながら、川の見えるお座敷にあがると心地よい空間です。作品は今も展示してあり、田中さんいわく「よい感じに油がのっている」そうです。

鳥保
鳥保
「写真撮らせてください」とお願いすると奥でお仕事をしていた奥様も呼んできて仲良く対応してくださるような焼き鳥やさんです。

永野鰹節店
永野鰹節店
店主さんも絵を描いていらっしゃるそうで色々お話してくださいました。お店の中の雰囲気もなかなかすてきです。

柴垣理容院
柴垣理容院
「理容院なので入りにくいかと思いますが絵をみに入ってきてください」とのこと。今でも作品が展示してあります。

リフォームショップ成岡
リフォームショップ成岡
描かれてから7年経っているので、女の子もだいぶ成長しているそうです。

清水経師店
清水経師店(初音町)
旦那さんは「ハンサムに代替わりした」なんておっしゃる楽しい方です。経師の作業をしていらっしゃる横に絵がありました。

竹内化成
竹内化成(初音町)
おじゃましたとき絵を掛けていらっしゃいました。いったん斜めに掛ってしまった絵をきちんと直してエレベータ横に展示されていました。

小林紙工
小林紙工(日ノ出町)
お店に入ると色々な文具がところ狭しとならんでいます。絵を探しながら商品探索もできる、そんな展示でした。

浜屋商店
浜屋商店(酒屋・初音町)
行くたびにご家族のちがう方が店番をしていらっしゃいました。小さなこどもがいた日はとてもなごやかな店内でした。

遊膳グレビー
遊膳グレビー(和食・日ノ出町)
この絵が掛っているとお客さんからそっくりだと言われてと照れくさそうなご主人。本当にそっくりです。

坂の上のそば屋司
坂の上のそば屋司(東ヶ丘)
急な階段を登ると、とてもみはらしのいい庭があるお店にたどりつきます。おかみさん所蔵の田中さんの他の作品とあわせて展示されていました。

佐野屋本店
佐野屋本店(日ノ出町)
店内にはなつかしい玩具が並んでいます。お店の人が「この絵は宝物」とお話ししてくれました。

 レストランシャルドネ
レストランシャルドネ(初音町)
おちついた雰囲気のレストランです。階段の途中にひっそりと絵が展示されていました。

シネマ・ジャック&ベティ
シネマ・ジャック&ベティ(若葉町)
こだわりのラインナップのミニシアター。奥にチラシなどがゆっくり見られるコーナがあります。今でも作品が展示されています。

ミツワグリル
ミツワグリル(日ノ出町)
ちょっとレトロなメニューにそそられる洋食屋さんです。

和泉屋
和泉屋(居酒屋・初音町)
昼は定食、夜は居酒屋として人気があるお店。田中千智展のポスターをとても気に入ってくださいました。

イセザキ書房
イセザキ書房(末吉町)
黄金町駅からだと川を渡って向こうがわです。本のディスプレイやポップもいい雰囲気です。

スリーエフ日ノ出町駅前店
スリーエフ日ノ出町駅前店
この絵に描かれているのは、オーナさんとその息子さんだそうです。駅すぐ横のコンビニです。

らーめんたつ屋
らーめんたつ屋(日ノ出町)
何回かおじゃましましたがお店の方は忙しそうに仕込みをしていらっしゃいました。おいしいものは手間がかかるんですね。


松田クリニック(日ノ出町)
診察室に絵を展示していただきました。
※写真の公開はありません

FOOTPRINT
FOOTPRINT(アジアンダイニングバー・日ノ出町)
おいしそうなメニューがたくさんあるお店です。


黄金町・日ノ出町・初音町エリアにはたくさんのすてきな商店があります。
今でも肖像画をかざっているお店もちらほら。
ぜひ町あるきをしてみてくださいね。

「田中千智展 I am a Painter」開催レポート

2016.2.1

10月2日~10月18日まで、「ニューアート展NEXT 2015 田中千智展 I am a Painter」を開催しました。
「ニューアート展NEXT」は、横浜と関わりのある気鋭の若手作家を紹介している展覧会で、今回が市民ギャラリーが新しい場所に移転して初めての開催となりました。
田中千智さんは、2008年の「黄金町バザール」に参加して初期の重要なキャリアを築いています。以来7年ぶりとなる横浜での作品発表となった本展では、当時黄金町のまちの人々を描いた肖像画「107人のポートレート」にはじまり、小説の装丁画や映画のポスターにもなった油彩作品、大型の新作まで、幅広い作品が会場に並び、会場は全国から訪れたたくさんの方々でにぎわいました。

《107人のポートレート》  photo:Ken Kato

《107人のポートレート》  photo:Ken Kato

 

photo:Ken Kato

photo:Ken Kato

 

photo:Ken Kato

photo:Ken Kato

 

《はてしない物語》  photo:Ken Kato

《はてしない物語》  photo:Ken Kato

 

photo:Ken Kato

photo:Ken Kato


また、21箇所の商店・病院にご協力いただき、「黄金町バザール」の会期中(10/1~11/3)肖像画はまちなかでも展示されました。
その様子はこちらで詳しくお伝えしています。

展覧会の開催までには様々な準備を行いました。

会場を確認する田中さん

会場を確認する田中さん


初めて田中さんが横浜市民ギャラリーを訪れたのは、この展覧会のちょうど一年前の開館記念展「横浜市民ギャラリークロニクル1964-2014」を開催していたときでした。
このときに地下1階の天井高のある空間を見上げて、「この空間を取り囲むような新作を描く」と決意を固めていました。

田中さん北川さん打合せ

田中さん北川さん打合せ


展覧会までには何度も打合せを行いました。
この写真に写っているのは、田中さんとデザイナーの北川正さん。北川さんには、この展覧会にまつわる全てのデザインを手掛けていただきました。

会場を見る田中さんと北川さん

会場を見る田中さんと北川さん


打合せを終えた後、会場を確認しているお二人。
何もない真っ白な空間はとても広く見えて、「こんな空間を全て絵画で埋めるなんてすごいプレッシャーだ」と、田中さん以上にはらはらどきどきしていた北川さんが印象的でした。

福岡アジア美術館

福岡アジア美術館


準備期間中にスタッフは福岡にも足を運びました。
横浜市民ギャラリーで展示する新作を、先に福岡アジア美術館での個展で公開したのです。

公開制作をする田中さん

公開制作をする田中さん


個展会場の一角には、制作できるスペースが設えてあり、そこで田中さんは絵画の公開制作を行っていました。

メモ

メモ


そこで発見したのが、田中さんが「メモ」と呼んでいる、作品のイメージスケッチです。
新作を構想するためにスケッチブックに描いたという小さなエスキースで、驚いたのは田中さんはこのエスキースをした後に直接キャンバスに描き始めるということ!
小さな下描きから一気に大きなキャンバスに描き進めるのです。
田中さんの描き方の瞬発力が表れていると思い、この「メモ」を初めて展覧会で公開することにしました。

《メモ》 展示の様子  photo:Ken Kato

《メモ》 展示の様子  photo:Ken Kato


そして展示作業です。
福岡から大型の作品が運びこまれ、田中さん立会いのもと、次々と作品が並んでいきます。
空間に対する作品の配置や照明の当て方で作品の雰囲気が大きく変わるので楽しくもありますが、それ以上に集中を要する作業です。

展示作業

展示作業


こうして様々な準備を経て、10月2日に展覧会が無事オープンしました。

展覧会初日の田中さん

展覧会初日の田中さん


今回の展覧会は、田中さんにとって過去最大規模の展示で、これまでの作品を一堂に展示した集大成とも呼べる内容になりました。
「やりきった!」と満足な顔を浮かべる田中さん、今後のますますの活躍に期待したいですね。

横浜市民ギャラリーではこれからも横浜のアートシーンを盛り上げていきたいと思います。

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