2018.11.20
修復士の上野淑美さんと画家の椿暁子さんを講師に迎えて「自作絵具で描く静物画テンペラと油彩の混合技法」が開催されました。
初回:5月25日
始めにスライドを見ながら、テンペラ画と油彩画の歴史と実際におこなう下地の作り方やテンペラ絵具の作り方などのレクチャーを受けました。
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今回は下地作りから始めます。木製のパネルに下地のジェッソ(膠と石膏を混ぜたもの)を7~8層塗り重ねます。刷毛あとが交差するように縦に塗ったら横に塗ります。
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ジェッソの厚みがついたら次週までこのまま乾燥させます。
2回目:6月1日
乾いたジェッソの表面を削り平らにします。
まず、紙やすりをかけた時に目印になるように木炭の粉を画面に塗ります。
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紙やすりを平らなテーブルに置いて、そこにジェッソを塗った画面を当てて削ります。紙やすりは荒目からだんだん細かい目に替えていきます。
先ほど塗った木炭が見えなくなって真っ白になるまで削れば凸凹がなくなって平らな画面の出来上がりです。
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画面が出来上がったら、次は絵具。テンペラメディウムを作ります。卵の黄身1に対してダンマルワニス(乾性油)1/2、リンシードオイル(乾性油)1/2、酢1/2、精製水1/2、に防腐剤と防カビ剤を混ぜます。
出来たテンペラメディウムを冷蔵庫で保管しておけばこの講座の期間中は腐らずに使えます。
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3回目:6月8日
この日から、いよいよ絵を描き始めます。
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モチーフを見ながら紙に下書きをします。
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下書きが出来たらジェッソを塗ったパネルに転写します。
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顔料を溶いてテンペラ絵具をつくり、パネルに写した下書きの線を描きます。
テンペラ絵具の作成はまず、パレットに顔料と水を乗せてよく混ぜます。そこにテンペラメディウムを入れて混ぜます。
さらに水を入れて絵具の濃度を調整します。
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この日は茶色のテンペラ絵具で下書きをなぞる所まで制作しました。
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4回目:6月15日
先週と同じ茶色のテンペラ絵具を作り、陰影を描きます。
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次は地透層(じとうそう)です。下地になっているジェッソの吸収性を調整するための下塗りです。
テレピン油(溶剤)とダンマルワニス(乾性油)を絵具皿に取り単色の油絵具をときます。
油に薄く色が付いたような状態の絵具を画面全体に塗ります。
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ここから下層描き(かそうがき)です。
下層描きとは透層(油絵具をとき油で薄くのばし描いた層)と白色浮出(テンペラ絵具の白で不透明な層)を数回繰り返し描くことです。
まず、テンペラ絵具のチタニウムホワイト(白)で明るい部分にハイライトをいれます。
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次は油絵具でモチーフの色を描きます。陰影の層とモチーフの色の層を何層か繰り返します。
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5回目:6月22日
引き続き下層描きを続けます。ある程度描けてきたら中層描きに移ります。
中層描きに入るとテンペラ絵具の描写を減らし薄く溶いた油絵具で描きます。
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6回目:6月29日
上層描きに入るとテンペラ絵具は使わず、油絵具で細かい部分まで描いていきます。
最終的に画面全体が油絵具の層で覆われたところで完成です。
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最後にみなさんの作品を並べてみました。
今回の技法では、テンペラ絵具の不透明で鮮明な特徴を活かして明るい部分や影を、油絵具の透明な層でモチーフの色彩や背景の表現を描きました。絵具の層が重なっていくと段々と絵に深みが感じられるようになりました。今回の講座でみなさんが体験したように、中世の画家たちはテンペラ絵具を作ったり、油絵具が乾くまで待ったりと時間をかけて制作していたのですね。
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