大人のためのアトリエ講座「レクチャー 漫画で記憶を描きとめる〜ヒサクニヒコの横浜の記憶〜」開催レポート

2026.3.29

2026年221日(土)、大人のためのアトリエ講座「レクチャー 漫画で記憶を描きとめる〜ヒサクニヒコの横浜の記憶〜」を開催しました。横浜市民ギャラリーではこれまでにも、さまざまな分野で活躍する専門家を講師に迎え、レクチャーを行ってきました。

今回は、ヒトコマ漫画家・イラストレーターのヒサクニヒコさんを講師にお迎えし、『濱手帖13 ヒサクニヒコの横浜の記憶』(P to P合同会社、2024年)の制作エピソードを中心にお話をうかがいました。レクチャーの様子をレポートします。

 

講師のヒサクニヒコさん

当日は36名が参加。ヒサさんの創作の背景や横浜での記憶について、熱心に耳を傾ける姿が見られました

 

はじめに、ヒサさんがこれまで手がけてきた多くの著作を紹介しながら、ご自身の歩みや、ヒトコマ漫画の魅力についてお話しいただきました。ヒトコマ漫画は、かつて「大人漫画」とも呼ばれ、一枚の絵の中にユーモアや風刺を込め、見る側の想像力を引き出す表現です。その特徴について、実際の作品を手がかりに解説が進みました。

 

「濱手帖15 ヒサクニヒコの横浜の記憶 乗り物編」昭和26年頃の横浜駅

「ヒサさんの作品がはじめて掲載された週刊誌」の貴重な実物も持参いただき、初期の作品を実際に見る機会となりました

 

今回のレクチャーの中心となった『濱手帖13 ヒサクニヒコの横浜の記憶』は、戦後の横浜を舞台に、ヒサさん自身の幼少期からの体験をもとに制作されました。

掲載されたイラストを見ながら、米軍に接収されていた当時の横浜の風景や、特徴的な形の「かまぼこ兵舎」をフェンス越しに眺めた光景など、具体的なエピソードが次々と紹介されます。その場所での出来事や当時の暮らしについて語るヒサさんの言葉に、参加者は興味深そうにうなずきながら耳を傾けていました。

 

「濱手帖13 ヒサクニヒコの横浜の記憶」表紙

「濱手帖13 ヒサクニヒコの横浜の記憶」伊勢佐木町

 

さらに、「当時の写真で見るよりも、ヒサさんが描いたヒトコマ漫画のほうが、まるでその場に自分が居るかのように感じる。その秘密は?」という司会者からの質問にも答えていただきました。

ヒサさんは、「まず、記憶に残ったものを描きたいと思う。でもいざ描こうとすると分からない部分があるので、その当時の写真資料を探す。すると、写真は全部が写っていて、どこをどう見ていいか分からなかったり、印象が弱くなってしまう。

それに対して絵は、全てを自分の手で描かないといけないので、道端の石ころ一つとっても全部自分が”ここにあったらいいな”と思って描くので、一つ一つに意味がある。そうして描いた絵には迫力が出てくる」と語られました。創作の根幹に関わるような、印象的なお話でした。

 

「濱手帖13 ヒサクニヒコの横浜の記憶」 野毛山動物園

 

また、子どもの頃の遊びや、友達と競うように雑誌の絵を模写していたこと、中学生時代に初めて漫画が文集に掲載されたエピソードなども紹介され、楽しげに語るヒサさんの姿に、会場には和やかな空気が広がっていました。

 

 

レクチャーの終盤には、「戦後の記憶を描いて伝えること」についてお話してくださいました。

同じ時代を生きた人々でも体験はさまざまであり、その視点の違いを意識しながら表現している――そう話すヒサさんの言葉から、作品に込められたまなざしの深さが感じられました。

 

 

レクチャーの最後には、会場に来てくださっていた女優の五大路子さんにもコメントをいただきました。戦後の横浜を題材にした演劇に長年取り組まれている五大さんから、同じく横浜の記憶を伝えるヒサさんの作品への思いが語られ、会場は大きな拍手に包まれました。

 

女優の五大路子さん

 

質疑応答では、「記録と記憶という観点で、漫画と写真の違いをどのように考えますか?」や「この作品はどの場所から描かれましたか?」など、制作に迫る質問が多く寄せられ、ヒサさんの丁寧な回答に、参加者との活発なやりとりが生まれていました。

 

 

レクチャー後のサイン会では長い列ができ、一人ひとりにイラストとサインが贈られました。軽やかな筆致でイラストを描きながら、参加者と交流するヒサさん。嬉しそうな参加者の皆さんの笑顔が印象的でした。

 

サイン会の様子

 

参加者からは、「ヒサさんの作品のバックグラウンドが聞けて面白かった」「昔の横浜の様子を聞けて嬉しかった」といった感想が寄せられました。今回の講座を通して、記憶がどのように表現へと形づくられていくのかに触れ、それぞれの中にある横浜の風景や記憶を見つめ直す機会となったのではないでしょうか。

ご参加いただいた皆さま、ありがとうございました。

 

 

文・箱山朋実(横浜市民ギャラリー エデュケーター)