収蔵作品 今月の1点

遊郭之図 ©Yokohama Civic Art Gallery

遊郭之図 矢野 徳 やの とく

■ 制作年:1978年
■ 技法・材料:マジック、水彩、紙
■ サイズ [縦×横×奥行]:72.4 × 102.8cm
■ 作品番号:CA-074
■ 分野:漫画

※「横浜画廊散歩」2025年12・2026年1月号に掲載

 

色とりどりの着物とかんざしを身に着け、日本髪を結った艶やかな女性たち。傍らには背広や蝶ネクタイ姿の西洋の男性たち。左奥には民族衣装を着た中国人もいます。お膳にはお酒や鯛などのごちそうが並び、男女は肩を寄せ合ったり楽器を弾いたり、賑やかな宴を繰り広げています。白黒模様の犬も帽子を被ってパイプをくわえ、人間の真似をしているのでしょうか。《遊郭之図》というタイトルの通り、本作は横浜にかつてあった遊郭の様子を描いています。日本は、江戸時代の200年以上に渡る鎖国を経て、1859年に開港しました。その港のひとつであった横浜には多くの外国人が訪れるようになり、同年、遊郭が設けられました。華やかな画面からは、東西の文化が出会い、熱気にあふれたお座敷の様子が伝わってきます。横浜はこうして次第に国際都市としての姿を現していきました。
作者の矢野徳は、台詞を書かず一コマの絵で社会を風刺する「大人漫画」の漫画家です。1938年に高知県で生まれ、『週刊サンケイ』などへの投稿をきっかけに18歳で上京し、以降は、一コマ漫画やイラストに加え、小説の挿絵も多く手掛けています。1974年には『元禄遊女伝』で第3回日本漫画家協会賞大賞を受賞。本作はその4年後、横浜市民ギャラリーで開催された「ヨコハマ漫画フェスティバル」のために描かれました。どちらの作品にも、矢野が得意とする艶っぽい遊女たちが登場します。
矢野は、時代物の小説の挿絵を描く際には、当時の服装や髪型、使われていた道具などを詳しく調べ、着物の質感にまでこだわると語ります(註)。このような時代考証に、漫画ならではの作者の独創性が加わることで、私たちは作品から人情の機微をも感じ取ることができるのです。 

 

註 矢野徳氏ヒアリング(20251010日)より

 

横浜市民ギャラリーでの展覧会:
1978年 「ヨコハマ漫画フェスティバル」