収蔵作品 今月の1点

元町の小さな坂道 ©Yokohama Civic Art Gallery

元町の小さな坂道 深沢 幸雄 ふかざわ ゆきお

■ 制作年:1988年
■ 技法・材料:銅版
■ サイズ [縦×横×奥行]:35.9 × 29.5cm
■ 作品番号:PR-272
■ 分野:版画
■ 備考:PR-273と同イメージ。エディション2/50。

※「横浜画廊散歩」2023年8・9月号に掲載

 

深沢幸雄は1924年山梨県生まれ。1949年東京美術学校(現・東京藝術大学)工芸科を卒業後、美術教師をしながら油彩画に取り組んでいましたが、東京大空襲での負傷に端を発するギプス生活で制作が困難になり、1954年より独学で銅版画を始めました。版画家として生涯1,300点を超える制作に取り組み、国内外多数の展覧会に出品して受賞を重ねる一方、銅版画の技法や道具類の独自の探求、技法書『銅版画のテクニック』(1966年、ダヴィッド社)の執筆、メキシコでの制作指導によりメキシコ文化勲章アギラ・アステカを受章するなど、版画の普及にも尽力しました。
《元町の小さな坂道》は、1988年「横浜市美術展・横浜百景展」の出品作として制作されました。元町から山手へ続く坂道を、深沢の作品にたびたび登場する細長く抽象化された人びとが上っていきます。その先の様子は見えず、暗闇に吸い込まれるような怖さがありますが、人物のフォルムはどこかかわいらしく、ユーモラスでもあります。こちらを向く人物の顔は、金属板を押し出したような凹凸で記号的に表わされ、見る人によってさまざまな印象を与えるでしょう。
深沢は作風を変遷しながらも、一貫して人間をテーマに制作しました。色彩を押さえた表現のなかに、版を刻んだ手仕事のぬくもりがあり、やわらかに人間の心の深層を問うような世界観が感じられます。

横浜市民ギャラリーでの展覧会:
1988年「横浜上海美術交流展(横浜市美術展・横浜百景展)」
1990年「横浜オデッサ美術交流展」
1992年「横浜コンスタンツァ美術交流展」