新・今日の作家展2025 穿ちの表象 New "Artists Today" Exhibition 2025: Look Beyond What We See

概要

「新・今日の作家展」は、1964年の開館以来、横浜市民ギャラリーが40年にわたり開催した「今日の作家展」を継承し、同時代の表現を紹介、考察する展覧会です。今回は穴をあける、物事の本質や人情の機微に巧みに触れる、という意味を持つ「穿つ」をキーワードに、眼前や周囲にある物事をよく見ることから発したテーマを各自の視点と手法で掘り下げ、表現を展開する作家を紹介します。
畑山太志は、自身が〈素知覚〉と呼ぶ、空気感や存在感や気配などを感じ取る、身体が本来的に持っているはずの知覚を手がかりに「知覚の外にあるものにどう触れ、捉えるか」をキーワードに絵画を描いています。早川祐太は、「人間はどのように世界に存在しているのか」という問いを起点に、約10年前に患った難病のためより意識的になったという身体感覚をもとに、重力や空気、表面張力などさまざまなものの性質、現象を取り入れ、彫刻やそれらを構成したインスタレーションを発表しています。松原茉莉は写真領域が持つ環世界-すべての生物は各々の知覚によって世界を理解し構築しているという世界観-の存在に着目し、写真を水に溶かし、インクとパルプへと還元する独自の手法で制作を行っています。現代社会では多くの物や情報が私たちを取り巻いています。出品作家らが着目する対象は必ずしも見えやすいものではありませんが、私たち自身も含む存在の探求にもとづくユニークな作品は、鑑賞する人々に自身が数多のものと共存していることや忘れていた感覚を思い起こさせ、日常における新たな視点や、支点の獲得を促すことでしょう。

畑山太志《光は変化する記憶》2025年 キャンバス、アクリル 116.7×91.0cm

畑山太志《明るさの精度》2025年 キャンバス、アクリル 53.0×72.7cm

早川祐太 個展「ブラックボール」展示風景(2025年、HAGIWARA PROJECTS/東京)©Yuta Hayakawa Courtesy of HAGIWARA PROJECTS Photo by Yuki Akaba

早川祐太《ブラックボール》2025年 水、水槽、養生テープ 20.0×20.0×30.0㎝ ©Yuta Hayakawa Courtesy of HAGIWARA PROJECTS Photo by Yuki Akaba

松原茉莉《ふたしかさの標本_ゴムの木》2024年 水溶紙にインクジェットプリント(AI写真生成、フォトアブストラクティング) 20.0×13.3㎝

松原茉莉《視線_静物》2025年 水溶紙にインクジェットプリント(フォトアブストラクティング)、木製パネル 112.0× 291.0cm 「変性する写真の実体」 展示風景(COPYCENTER GALLERY/東京)

日程

開場時間

(入場は17:30まで)

休館日
会期中無休
入場料
入場無料
会場

横浜市民ギャラリー 展示室1、B1

〒220-0031 横浜市西区宮崎町26番地1

主催
横浜市民ギャラリー(公益財団法人横浜市芸術文化振興財団/西田装美株式会社 共同事業体)
助成
公益財団法人野村財団

関連イベント

対談「あいまいな物質、行為と観測」

松原茉莉×飯田竜太(美術家/彫刻家/Nerhol)
9月15日(月・祝)14:00-15:30(13:40開場)
会場:4階アトリエ
定員:先着50名
参加費:500円

 

※当日13時より展覧会場受付で整理券を配布します。参加費は4階アトリエでお支払いください(現金のみ)。

対談「現実は生まれかわる」

畑山太志×沢山遼(美術批評家/武蔵野美術大学准教授)

927()14:00-15:30(13:40開場) 

会場:4階アトリエ

定員:先着50

参加費:500

 

※当日13時より展覧会場受付で整理券を配布します。参加費は4階アトリエでお支払いください(現金のみ)。

対談「さわれない世界のさわりかた」

早川祐太×伊藤亜紗(美学者)

104()14:00-15:30(13:40開場) 

会場:4階アトリエ

定員:先着50

参加費:500

 

※当日13時より展覧会場受付で整理券を配布します。参加費は4階アトリエでお支払いください(現金のみ)。

出品作家3名によるギャラリーツアー

913日(土)15:00-15:45

会場:展示室1B1

 

※参加無料、申込不要

学芸員によるギャラリートーク

9月20日(土)14:00-14:30
会場:展示室1、B1

 

※参加無料、申込不要

出品作家3名によるクロージングトーク

本イベントは10/6(月)に急遽開催しました

10月6日(月)16:30~
会場:展示室1、B1

※参加無料、申込不要

プロフィール

photo by Kohei Hanawa

畑山太志 HATAYAMA Taishi
1992年神奈川県生まれ。2017年多摩美術大学大学院美術研究科修士課程絵画専攻油画研究領域修了。視覚では捉えることができないものの、自然の場で身体が確かに感じ取る空気感や存在感の視覚化を試みる畑山は、彼が「素知覚」と呼ぶ、知覚の外側ではない本来身体が持っているはずのありのままの知覚を手がかりに、目に見えない世界を表象する。2014年に白を基調とした絵画作品で「第1回CAF賞」の優秀賞と名和晃平賞を同時受賞後、自然のさまざまな現象が持ちうる環世界や植物が多様な生物とともに形成するネットワーク、さらにはデジタルやAIまでをも含みこむ現代における新たな自然など、多様なモチーフをベースに制作を展開する。主な個展に「自由な現実」(EUKARYOTE/東京、2025年)。主なグループ展に「VOCA展2023 現代美術の展望─新しい平面の作家たち」(上野の森美術館/東京、2023年)、「網膜と記憶のミトロジー」(セゾン現代美術館/長野、2018年)などがある。主な受賞に2015年「TURNER AWARD 2014」優秀賞、2014年「第1回CAF賞」優秀賞、審査員特別賞(名和晃平賞)。
(2025年7月23日 更新)
早川祐太 HAYAKAWA Yuta
1984年岐阜県生まれ。2010年武蔵野美術大学大学院造形研究科彫刻コース修了。「人間はどのように世界に存在しているのか」という問いを起点に、重力や空気、表面張力など物理的性質・現象を取入れて制作した彫刻、それらを組み合わせたインスタレーションを発表している。主な個展に「ブラックボール」(HAGIWARA PROJECTS/東京、2025年)、「Shape for Shape」(Art Center Ongoing/東京、2020年)、「クリテリオム95 早川祐太」(水戸芸術館現代美術センター/茨城、2018年)、「i am you」(BANANAJAM/深圳・中国、2018年)、主なグループ展に「瀬戸内国際芸術祭2025」(瀬戸大橋エリア瀬居島旧瀬居中学校屋上/香川、2025年)、「でんちゅうストラット−つなげる彫刻」(平櫛⽥中彫刻美術館/東京、2021年)、「⼼ある機械たち again」BankART Station, BankART SILK/横浜、2019年)等。
(2025年7月23日 更新)
松原茉莉 MATSUBARA Mari
1997年東京都生まれ。2020年日本大学芸術学部写真学科卒業、2024年東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻修了。写真領域が持つ環世界の存在に目を向けながら、世界とそこに含まれるものたちとの関係性を問う。知覚や記憶の「裂け目」のようなものとして、物質と表象、顕像と潜像、メタファーとリアリティが混在する作品を制作している。主な展覧会に、「変性する写真の実体」(COPYCENTER GALLERY/東京、2025年)、「SENSE ISLAND/LAND | 感覚の島と感覚の地 2024」(横須賀美術館、三笠ターミナル/神奈川県、2024年 ※TOKYO PHOTOGRAPHIC RESEARCHメンバーとして)、「不在此見 / Not in this image」(国立台北芸術大学關渡美術館/台北、2020年)。
(2025年7月23日 更新)
飯田竜太 IIDA Ryuta
1981年静岡県生まれ。2007年 アーティストデュオ「Nerhol」を結成。2014年東京藝術大学大学院美術研究科先端藝術表現専攻修了。近年の主な展覧会:「再考現学展-“Re-Modernologio"pahse1: 衣食住から世界をまなざす」(ACAC国際藝術センター青森/青森、2011年)、「水平線を捲る」(千葉市美術館/千葉、2024年)、第12回岡本太郎現代芸術賞入選、第27回「VOCA展2020」VOCA賞受賞(Nerhol)、令和6年度芸術選奨文部科学大臣新人賞美術B部門(Nerhol)。
(2025年7月23日 更新)
伊藤亜紗 ITO Asa
美学者。東京科学大学未来社会創成研究院/リベラルアーツ研究教育院教授。MIT客員研究員(2019)。もともと生物学者を目指していたが、大学3年次より文転。2010年に東京大学大学院人文社会系研究科基礎文化研究専攻美学芸術学専門分野博士課程を単位取得のうえ退学。同年、博士号を取得(文学)。主な著作に『目の見えない人は世界をどう見ているのか』(光文社)、『どもる体』(医学書院)、『記憶する体』(春秋社)、『手の倫理』(講談社)。第13回(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞、第42回サントリー学芸賞、第19回日本学術振興会賞、第19回日本学士院学術奨励賞受賞。
(2025年7月23日 更新)
沢山遼 SAWAYAMA Ryo
1982 年生まれ。美術批評。武蔵野美術大学造形研究科修士課程修了。武蔵野美術大学美学美術史研究室准教授。2009年「レイバー・ワーク―カール・アンドレにおける制作の概念」で第14回芸術評論募集第一席。著書に『絵画の力学』(書肆侃侃房、2020年)。主な共著に『現代アート10講』(田中正之編著、武蔵野美術大学出版局、2017年)、『絵画との契約―山田正亮再考』(松浦寿夫ほか著、水声社、2016年)、国立新美術館編『今、絵画について考える』(水声社、2023年)などがある。
(2025年7月23日 更新)

開催レポート

「穴をあける、ものごとの本質や人情の機微に巧に触れる」という意味のある「穿つ」をキーワードに、3名の作家を紹介しました。
松原茉莉さんは1階展示室に4つのセクションを設け、2439点を展示しました。はじめの3セクションではそれぞれ、AI写真生成したイメージを水溶紙にプリントし水に溶かしてアブストラクト(抽象化)した作品、秤に小さな写真とお香の燃え滓を乗せた《存在_熱》、パネル上で重層的に写真を溶かしアブストラクトした作品を展開し、最後に制作過程の映像やプロトタイプを見せる《未分》セクションを加えて構成しました。作品の静ひつな印象とともに、写真に付随する記憶の曖昧さや儚さを見る者に訴えました。畑山太志さんはB1展示室に絵画12点を出品しました。活動初期の百合を白く塗りつぶした作品からはじまり、抽象的なイメージがさまざまな大きさのキャンバスに溢れんばかりの色彩で描かれた作品と続き、鑑賞者の視線を導きました。畑山さんはかつて、誰もが経験しながらも言語化が難しい知覚を指す〈素知覚〉を造語しました。〈素知覚〉を制作の軸とした時期を含みほぼ制作順に並んだ構成によって、心境や制作の変遷と現在地を示すような空間が立ち上がりました。早川祐太さんは同じB1展示室に、彫刻や写真、ドローイング等1112点を出品しました。早川さんは14年前に罹患した病気のため触覚を失い、現在は認識を転換して得た触覚に代わる知覚を用いています。早川さんが202534月に開催した個展のタイトルでもある《ブラックボール》は、その経験を象徴するような作品でした。本展でもこの主題が掘り下げられ、市民ギャラリー1階の空気を地下に引き込んだ《an earth of water》をはじめ、ものの存在の仕方や境界などにフォーカスした作品で私たちの知覚を揺さぶりました。
関連イベントではゲストを招いた対談、出品作家によるギャラリーツアー、学芸員トークに加え、最終日に急遽作家3名のクロージングトークを実施しました。いずれも作品や作家の理解を深める充実した内容となりました。

 

[展覧会データ]
新・今日の作家展2025 穿ちの表象 2025年9月13日(土)~10月6日(月)24日間  10:00~18:00
横浜市民ギャラリー展示室1、B1
出品点数:47件63点
展覧会入場者数:展覧会入場者数4,243名+イベント参加者数202名=合計4,445名

関連資料