新・今日の作家展2016 創造の場所―もの派から現代へ New “Artists Today” Exhibition 2016: Spaces of Creation; Mono-ha to the Art of Today

概要

横浜市民ギャラリー開館の1964年から40年にわたって開催した「今日の作家展」は、企画に美術評論家を招聘し日本の現代作家の表現を多角的に取り上げ、現代美術のひとつの流れを示す重要な足跡を残した年次展覧会です。表現の多様化に伴い「今日の作家展」は、2006年から「ニューアート展」、「ニューアート展 NEXT」へと受け継がれてきました。現在の場所に移転・再始動し3年目を迎えた本年、当ギャラリーは、年次展覧会の総称を再び「今日の作家展」として、同時代の美術を紹介していきます。
「新・今日の作家展」第一弾では、既成の価値観や認識からものごとを解放し、ものともの、ものと空間、ものと身体の限りない連関をあらわす作家たちの作品に焦点をあてます。1960年代後半に現れた〈もの派〉の作家たちは、「今日の作家展」を活動の場所のひとつとしていました。事物の存在や関係、それらが置かれる状況や空間自体を作品とし、ものの本質を問い続けた〈もの派〉の思想は、世界と向き合う糸口として今日の美術に脈々と流れています。
本展は、「今日の作家展」に出品された斎藤義重と榎倉康二の作品、そして菅木志雄、池内晶子、鈴木孝幸の新作により構成し、〈もの派〉から現代へとつながる”創造の場所”をめぐりながら、つくること・みることの可能性を探ります。

鈴木孝幸《heaping earth -472》2015年 釘、テグス、各地にて採取した石、木、陶器片、ガラス片、金属片等 ※参考作品

菅木志雄《縁帯》1986/2015年 石、木 撮影:佐藤毅 ※参考作品

斎藤義重《内部》1981年 ラッカー、木、ボルト、紐 横浜美術館蔵

榎倉康二《無題》1979年 綿布、油彩 世田谷美術館蔵 撮影:上野則宏

日程

開場時間

(入場は17:30まで)

休館日
会期中無休
入場料
入場無料
会場

横浜市民ギャラリー 展示室1、B1

〒220-0031 横浜市西区宮崎町26番地1

主催
横浜市民ギャラリー(公益財団法人横浜市芸術文化振興財団/西田装美株式会社 共同事業体)
協賛
アサヒビール株式会社
助成
芸術文化振興基金
後援
横浜市文化観光局

関連イベント

アーティストトーク

2016年9月22日(木・祝)14:00~
会場:横浜市民ギャラリー 4階アトリエ
出演:池内晶子、鈴木孝幸

※参加無料、申込不要

上映会《存在と殺人》

映画「存在と殺人」(1998-1999年 監督・脚本:菅木志雄 86分)を上映します。

2016年10月1日(土)14:00~
会場:横浜市民ギャラリー 4階アトリエ

※参加無料、申込不要

講演会「もの派の造形思想の中核としての菅木志雄」

2016年10月2日(日)14:00~
会場:横浜市民ギャラリー 4階アトリエ
出演:千葉成夫(美術評論家、中部大学教授)

※参加無料、申込不要

クロージングイベント

2016年10月9日(日)

菅木志雄 アクティヴェイション 14:00~
池内晶子 “絹糸を切る” 16:00~
会場:横浜市民ギャラリー展示室1

※池内晶子は、出品作品を変容させていくパフォーマンスをおこないます。パフォーマンス前後で作品の外観が異なります。

※参加無料、申込不要

学芸員によるギャラリートーク

2016年9月25日(日)14:00~
会場:横浜市民ギャラリー 展示室1

※参加無料、申込不要

作家プロフィール

斎藤義重 SAITO Yoshishige
斎藤義重 (1904-2001年)は、青森県に生まれました。中学生の頃から美術に親しみ絵を描きはじめますが、1920年にロシア未来派の亡命画家たちの展覧会の会場で、展示された作品に描き加える画家の姿を見たことを機に、絵画表現に限界を感じるようになります。1930年代、ロシア構成主義やダダイズムの動向を知ると、絵画や彫刻といったメディウムに属さない造形作品を手がけるようになりました。1960年代前半に、着色した合板の表面に電気ドリルで線や穴を刻んだ連作を発表した後、塗装した合板を切って重ねたり曲げたりするレリーフ状の作品へと移行します。ものとしての存在を強く感じさせるような制作はやがて、作品が設置される空間をも取り込んで展開しました。《内部》は、1981年の「第17回今日の作家<壁>展」に際して制作されました。黒色に塗った板を組み合わせ、展示室の壁際に設置したこの作品は、構築の途中のようでもあり、崩れていく過程にも見えます。「大切なのは、頭のなかの空間ではなくそこにある空間。そして、私という存在。存在するとうことは、私とものと空間の出会い。だから作品を取り巻く空間も私の作品の一部となる。」と斎藤が述べているように、《内部》は意図的に未完成に見える状態を晒し、空間とともに完結することのない制作のプロセスを提示していると言えるでしょう。
(2021年4月1日 更新)
榎倉康二 ENOKURA Koji
榎倉康二 (1942~1995年)は、東京に生まれました。1968年東京藝術大学大学院美術研究科修了後、第10回日本国際美術展「人間と物質」(1970年)、第7回パリ青年ビエンナーレ(1971年)、第38回ヴェネチア・ビエンナーレ(1978年)など、国内外で活動を展開しました。《予兆ー柱・肉体(P.W.-No.46)》は、当時の横浜市民ギャラリーで撮影され、1972年の「第8回今日の作家72年展」に出品されました。自身の身体を対象に添わせることで、「私」の存在する位置を確認し世界を認識しようとする姿が俯瞰した位置から写されています。カメラの特質を制作に取り入れた榎倉は、「わたしが、物を見ていると同時にカメラ自体も物に接している、だからカメラによって何を撮るか、というよりも、何がカメラに写っているかということの方が、わたしにとって大事な問題であり、カメラの機構としてファインダーという空間の限定性をそのまま出すことによって、ファインダーからのぞかれた世界に無限定に拡大された世界を設定したりすることをやめ、ファインダーを人間の目から解放したいと思っている。」と述べています。《無題》は、1979年の「第15回今日の作家’79展」の出品作品です。塗り込んだ布に重ねられた白い布には、油絵具が浸透し滲みが生じています。物質の浸透という現象は、榎倉の制作において重要なテーマのひとつでした。この作品では布や油絵具は絵画の素材としてではなく、物質として提供されています。床へと下る布の設置からは、平面から広がる空間を志向する様子がうかがえます。
(2021年4月1日 更新)
菅木志雄 SUGA Kishio
菅木志雄は、1944年に岩手県に生まれました。1968年多摩美術大学絵画科卒業。第8回パリ青年ビエンナーレ(1973年)、第38回ヴェネチア・ビエンナーレ(1978年)、第16回サンパウロ・ビエンナーレ(1981年)などの国際展に参加。個展に「菅木志雄ースタンス」(1999年、横浜美術館)、「揺らぐ体空ー菅木志雄 インスタレーションー」(2005年、岩手県立美術館)、「菅木志雄」(2014年、ヴァンジ彫刻庭園美術館)、「菅木志雄 置かれた潜在性」(2015年、東京都現代美術館)など。国内外でのグループ展多数。2016年、第57回毎日芸術賞を受賞。菅は、もとのものとの相互の関係や空間の連続性など、ものの本質を問う制作を継続して行っています。
(2021年4月1日 更新)
池内晶子 IKEUCHI Akiko
池内晶子は、1967年東京に生まれました。1993年東京藝術大学大学院美術研究科壁画専攻修了。1998年東京藝術大学大学院美術研究科油画専攻博士課程満期退学。1998年から2年間、文化庁派遣芸術家在外研修員および日米芸術家交換計画日本側派遣芸術家としてニューヨークに滞在。gellery21yo-j にて継続して個展を開催、グループ展に「第6回富山国際現代美術館」(1996年、富山県立近代美術館)、「MOTアニュアル2011 Nearest Faraway | 世界の深さのはかり方」(東京現代美術館)、「秘密の湖 ~浜口陽三・池内晶子・福田尚代・三宅沙織~」(2013年、ミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクション)など多数。糸を結ぶ、切るといった行為を繰り返し、天井から吊るしたり壁面に張りわたしたりすることによって、人と空間の関係を考察しています。池内の作品は、空間の広がりや流動を私たちに体感させます。
(2021年4月1日 更新)
鈴木孝幸 SUZUKI Takayuki
鈴木孝幸は、1982年愛知県に生まれました。2007年筑波大学大学院芸術研究科修士課程総合造形分野修了。菅木志雄が審査員を務める大黒屋現代アート公募展で2009年に大賞を受賞。個展に「那珂川のほとりで [place/linear] 」(2010年、板室温泉大黒屋サロン)、「川をつくること、で [place/bottom](2012年、Gallery HAM)、「資本空間ースリー・ディメンショナル・ロジカル・ピクチャーの彼岸vol.4 鈴木孝幸」(2015年、ギャラリαM)、グループ展に「中之条ビエンナーレ」(2009 / 2011 / 2013 / 2015年、群馬県中之条町)、「境界」(2013年、倉庫現代美術館)など多数。鈴木は、様々な土地を訪ね、地面を掘る、物質を運び積み上げる、削るといった一種の行為を作品として提示します。鈴木の作品は、土地や物質の側面を開示し背景にある自然の存在を暗示します。 
(2021年4月1日 更新)

開催レポート

横浜市民ギャラリー開設の1964年から40年にわたって開催した「今日の作家展」の新しい幕開けとなる「新・今日の作家展」第一弾では、既成の価値観や認識からものごとを解放し、ものともの、ものと空間、ものと身体の限りない連関をあらわす5名の作家の作品を紹介しました。
斎藤義重さん、榎倉康二さんの展示作品は、過去の「今日の作家展」に出品された作品です。制作されてから時間を経てもなお、それぞれの作品は、設置される空間に伴って新たな表情を見せていました。菅木志雄さん、池内晶子さん、鈴木孝幸さんは、本展にあわせて制作した新作を展示しました。普段意識することのないような場所の成り立ちや広がりを感じさせる作品を前に、じっくり鑑賞される方が多く見られました。
会期中には、池内さん、鈴木さんのアーティストトークや菅さんの初監督作品の上映会、「今日の作家展」の企画を手掛けたことのある千葉成夫さんの講演会など、展覧会の内容を充実させるイベントを開催しました。最終日のクロージングイベントでは、会場に溢れる程の人が集まり、作品が変容する現場に立会いました。
本展を通じ、横浜市民ギャラリー開設後まもなく現れた〈もの派〉の重要性、そして〈もの派〉の現在性について考える場をもたらすことができました。

新・今日の作家展2016 創造の場所―もの派から現代へ
2016年9月22日(木・祝)~10月9日(日)18日間 10:00~18:00
横浜市民ギャラリー 展示室1・B1
出品作品:11点
展覧会入場者:5,211名+関連事業参加者445名=合計5,656名

関連資料