横浜市民ギャラリーコレクションの形成と現在

横浜市民ギャラリーにはおよそ1,300点のコレクション(収蔵作品)があります。コレクションがどのように形成され、現在どのように管理・発信しているかについてご紹介します。

横浜市民ギャラリーについて

横浜市民ギャラリーは、1964年に開設されて以降、これまでに二度の移転を経て、2014年から現在地で運営しています。初代館長で詩人の山田今次(1912~1998)が考えた「市民ギャラリー」という名称は、全国で初めて用いられたとされています。

中区桜木町の初代施設(1964年4月~1974年6月)
1974年から2013年まで横浜市民ギャラリーがあった
中区万代町の横浜市教育文化センター
B1~3階が横浜市民ギャラリー(1974年7月~2013年3月)
撮影:宮崎純安

コレクションの形成

長い歴史の中で開催してきた企画展等を契機として収集されてきたコレクションは、およそ1,300点にのぼります。現在も「新・今日の作家展」にその理念が引き継がれている代表的な企画展、「今日の作家展」をはじめ、かつては個展や海外の姉妹都市・友好都市との交流展等もおこなわれていました。

現代美術を紹介してきた「今日の作家展」は、横浜市民ギャラリー開設の1964年から開催
(今日の作家展70年展、若江漢字《対峙 2》展示風景) 写真提供:若江漢字

コレクションの概要

コレクションされている作品の分野は、油彩、日本画、版画、写真、水彩・素描、彫刻・立体、漫画、書、資料・参考、工芸の10種類です。
作品の受け入れは1960年代から始まり、70~90年代にかけて多くの作品を収蔵しました。作品の制作年代は、1920年代から1990年代に渡っています。

作品受入れ年代別グラフ
作品制作年代の分布

地域の作家に新作の制作を依頼して催した展覧会の際にまとめて収蔵された場合は、同年の受け入れ数が多くなっています。そのため、作品は神奈川・横浜にゆかりのある作家のものが多く、制作当時の横浜の風景が伺える等、貴重な内容となっています。主に、戦後から90年代初頭までの美術シーンを反映しているといえます。

主な収蔵作品

コレクションより、主な作品をご紹介します。

林敬二《横浜港》

1988年/油彩、キャンバス/91.0×116.0㎝

1988年の「横浜・上海友好都市提携15周年記念 横浜美術展・横浜百景展」の出品作。林は浮遊感ある抽象的な空間と人物を組合わせた作風で知られますが、本作は建築中の横浜ベイブリッジ等実際の建造物や具体的な風景が描かれた、珍しい作例です。

宮本昌雄《横浜山手春秋譜》

1979年/紙本着彩/182.3×228.0㎝

片岡球子、中島清之に師事した宮本は、日本鋼管の工場に勤務しながら院展に出品しました。在職中は自らの生活の中心にあった工場をテーマに制作し、退職後は自宅の近所である山手の風景をよく描きました。本作は桜と紅葉が同時に咲き誇る空想上の光景にもなっています。

馬場檮男《横浜博覧会の図(中国の船)》

1990年/リトグラフ/50.3×61.5㎝

馬場は多色刷りのリトグラフで、ゲームやおもちゃ、キャラクターや架空の生き物等が登場する、楽しげながらどこか不穏な雰囲気も併せ持つ作品を制作しました。本作は1989年に開かれた横浜博覧会をテーマとし、画面全体が紙芝居のようなデザインになっています。

奥村泰宏《似顔絵描き》

1950年/ゼラチン・シルバー・プリント/33.8×33.7㎝

戦前から写真を撮影していた奥村は、戦後になって戦災孤児救済活動をしていたこともあり、当時の社会状況を写すようになりました。本作は占領下の伊勢佐木町で撮影されました。体格や服装等、軍人らと画家の様子は対照的ですが、奥村の視線は画家を中心に据えているように見えます。

高松次郎《青の線と面》

1984年/ガッシュ、紙/46.6×64.8㎝
©︎The Estate of Jiro Takamatsu, Courtesy of Yumiko Chiba Associates

60年代から現代美術作家として活躍した高松が80年代に取組んだ、身体性の軌跡を残すドローイングシリーズに連なる作品。青一色で描かれ、ところどころ塗られたかたちが躍動感を印象づけます。

ヒサクニヒコ《市電廃止(昭41−47)[開通明治37年神奈川−大江橋間]》

1978年/マジック、水彩、アクリル、紙/102.7×72.6㎝

1978年開催の「ヨコハマ漫画フェスティバル」の出品作。同展は二代目市民ギャラリーのすぐ横にあった大通り公園の完成記念で、40名の漫画家、イラストレーターが76点の描きおろし作品を出品しました。ヒサは廃止された市電をテーマに一コマ漫画に表しました。

コレクションの管理・点検

コレクションは、常時「収蔵庫」に保管しています。作品はよりよい状態に保ち、永く後世に伝えるため、点検をおこない、状態に変化がないか確認します。新たに判明した情報はデータベースに記録して管理します。

収蔵庫内の様子
作品点検の様子

修復・クリーニング

制作から時間の経った作品も多いこともあり、必要な作品は修復やクリーニングを実施します。

専門家による版画作品の修復
専門家による大型日本画作品裏面の修復

IPM点検

収蔵庫、館内の環境を作品の保存に適した状態に維持するため、IPM(総合的有害生物管理)を取り入れた環境整備をおこなっています。

こまめに館内の清掃をおこない、虫やカビの発生を防ぎます
必要に応じて簡易消毒を行います

コレクションの発信

このようにして保存、調査、研究をおこなっているコレクションは、年に一度、コレクション展でご紹介しています。

◎ これまでの「横浜市民ギャラリーコレクション展

また、以下の情報誌やホームページでも紹介しています。ぜひご覧ください。
◎「横浜画廊散歩」
「アートヨコハマ」のコラム「横浜市民ギャラリーゆかりの作家たち」
◎ ホームページ「今月の一点」