収蔵作品 今月の1点

山手風景 ©Yokohama Civic Art Gallery

山手風景 中谷 龍一 なかたに りゅういち

■ 制作年:1988年
■ 技法・材料:油彩、キャンバス
■ サイズ [縦×横×奥行]:117.0 × 91.0cm
■ 作品番号:O-145
■ 分野:油彩他

※「横浜画廊散歩」2016年10月号に掲載

中谷龍一は、1917(大正6)年、北海道小樽市に生まれました。1930年兵庫県芦屋市に移り、旧制灘中学校に入学。1935年に同校卒業後、宝塚舞台美術研究所を経て宝塚音楽学校に就職、舞台装置を担当しました。この間、小磯良平(1903‐1988)に師事し二科会オール関西展に出品しています。1940年に応召。1944年に除隊・帰国後は横浜に居を定めます。1947年からは木下孝則(1894‐1973)に師事し、木下が創立に関わり出品していた一水会展に中谷も出品を始めました。1950年第12回一水会展で≪犬とN嬢≫が、同年日展で≪K子像≫がともに初入選を果たしています。1951年一水会賞を受賞、翌年会員推挙を受け、以後同会を中心に活躍しました。

画歴の初期は小磯や木下の影響が強く、女性を中心に室内風景を背景とした人物画を多く描いていましたが、1950年代半ばにヨーロッパを訪れたことをきっかけに、戸外の風景を描くようになります。中谷が興味をそそられたのは、パリなどの大都市よりもスペインやイタリアの郊外の田園風景や、小さな町や村でした。どこまでも広がる草原や、土や石でできた家屋、未舗装の往来等、同所の乾いた空気まで感じられるような風景を背景に、そこに佇む人や馬をともに描くようになりました。その表現は室内の人物画を描いていた頃から変化し、やわらかな色彩で平板に描かれた風景と人物や動物の輪郭が、互いに溶け込むような独自の画風を確立しました。

本作には、丘の上の山手十番館を目指し、コートを着て重たそうな鞄を抱えた女学生と思われる人物が階段を上るところが描かれています。夕暮れ時なのか、ぼかしたような筆致で描かれた階段の周囲の木立をはじめ全体に施された色彩は暗く、後姿の女学生の寂しげな心境を表しているようにも感じられます。

横浜市民ギャラリーでの展覧会:
1980年 抒情の世界を詩う 中谷龍一展
1981年 第5回春雷展
1992年 横浜・コンスタンツァ姉妹都市提携15周年記念
    現代日本の版画と写真の展開~いまヨコハマから 
1993年 横浜現代美術展 横浜の波